脂質 21 短鎖脂肪酸
短鎖脂肪酸トリグリセリドは、2〜3個の脂肪酸が6個以下の炭素原子の脂肪族尾を持っています。
酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸、コハク酸などがあります。
短鎖脂肪酸は酸性の成分なので、短鎖脂肪酸ができると弱酸性の腸内環境になるといういことでし。弱酸性であると悪玉菌の出す酵素の活性が抑えられるため、発がん性物質である二次胆汁酸や有害な腐敗産物ができにくくなり、腸内環境が健康に保たれます。
1、有害物質からのバリア機能の強化
酢酸には大腸のバリア機能を高める働きがあると言われています。
例えば、酢酸を多く生産するビフィズス菌を摂取していると、病原性大腸菌に感染しても体内にその毒素が入り込むのを防げることが示されています。また、酪酸にも腸管細胞のMUC2遺伝子を活性化することで、粘膜物質であるムチンの分泌を促し、大腸を保護する作用があると言われています。
2、発がん予防
短鎖脂肪酸は腸内を弱酸性にすることで有害な二次胆汁酸をできにくくするため大腸癌の予防につながります。また、酪酸には、大腸細胞の異常な増殖を抑える、アポトーシスを促す、大腸細胞の病変を抑えるなどの作用で大腸癌の発症を抑えるといわれています。プロピオン酸は肝臓癌細胞にある短鎖脂肪酸受容体に作用して、肝臓癌細胞の増殖を抑えるという研究報告があります。
3、肥満の予防
短鎖脂肪酸は脂肪細胞にある短鎖脂肪酸受容体に作用して脂肪細胞へのエネルギーの取り込みを抑え、脂肪細胞の肥大化を防ぎます。また、神経細胞にある短鎖脂肪酸受容体にも作用し、交感神経系を介してエネルギー消費を促すなど、エネルギーバランスを整える働きがあります。
4、糖尿病の予防
酪酸には腸管にあるL細胞に作用して、腸管ホルモンであるインクレチンの分泌を促す作用があります。インクレチンは糖尿病を予防・改善する作用があり、インスリンを分泌する膵臓β細胞数の減少を抑えたり、インスリン分泌を促す作用があります。
5、食欲の抑制
酪酸やプロピオン酸は腸管のL細胞からインクレチンのほかPYYのような腸管ホルモンも分泌する。インクレチンやPYYは、脳に作用して食欲を抑える働きがあり、満腹感を持続させて過食を防ぐことが知られている。また、酢酸はそれ自体が脳に直接作用して食欲を抑えるという研究報告もあります。(※インクレチンはタンパク質摂取でも分泌されます)
6、免疫機能の調節
腸は全身の免疫細胞のおよそ60%が集中し、腸の免疫バランスの崩れ(特に過剰な免疫反応)が全身に影響すると言われています。酪酸には過剰な免疫反応(アレルギー症状)を抑えるTreg細胞という免疫細胞を増やす効果があります。
腸の免疫疾患である炎症性腸疾患の患者は日本でも増えており、治療法の見つかっていない難病に指定されていますが、こうした患者さんは、腸内細菌中の酪酸産生菌の数が減っているケースが多いとされ、こうした炎症性腸疾患やクロストリジウム・ディフィシル感染症の患者に対しては生体便移植により、酪酸菌を含めた腸内細菌全体を移植する方法により治療できる可能性があることが示されています。